今回の記事では、高齢者によく見られ病気の兆候である場合が多い「傾眠」についてご紹介していこうと思います。
傾眠とは
傾眠とは、軽めの声掛けや、肩を軽く叩くといった弱い刺激で眠りから覚める(意識を取り戻す)程度の、軽度の意識障害の一種とされています。
これは、睡眠不足の人が日中眠気に襲われうたた寝したり、食後の満腹感から眠気に襲われているのと同じようにも見えますが、ただの居眠りとは異なります。
場所と時間が分からなくなったり、起こされる直前の出来事の記憶がないこともある。外出といった自発的に動くことが少なく、ベッドに寝たきりの生活の人がなりやすい傾向にあります。
意識障害の程度としては、以下のようになります
・意識正常
意識がはっきりしていて、周囲の状況判断や会話などの意思疎通が問題なくできます。いわゆる「正常」の状態です。何らかの理由で意識が正常でなくなったときには注意が必要です。
・傾眠
浅く眠っている状態です。体を揺するなどの軽い刺激で意識を取り戻し、呼びかけにも反応しますが、しばらく放置しているとまた眠ってしまうという傾向が見られます。
・昏迷
大きい声での呼びかけや、強めに体を揺すったり叩いたりするなどの痛みなどを与えないと意識を戻さない状態です。意識を取り戻すと、手で払ったり、叫んだりなど、物理的な刺激による不快感を嫌がる行動を見せることがあります。
・昏睡
外部から強い刺激を与えても意識を取り戻すことはなく、刺激に対する反応や不快感を避けようとする素振りも現れない状態です。ただし脊髄反射と排泄行為はあるので、植物人間状態に近いものだと言えます。
傾眠と寿命や余命
ネットで傾眠というキーワードを検索していると「寿命」や「余命」といった単語が出てくることがあります。
しかし、どれだけ調べても傾眠が「寿命」や「余命」に直結するという内容の記事は見つけられませんでした。
上の「傾眠とは」でご紹介したように、傾眠は意識障害の1つであり、症状がひどくなると昏迷や昏睡といった症状に発展する可能性があります。
傾眠については注意する必要はありますが、必要以上に恐れることもありません。周囲のご家族も含めて上手に付き合っていくことが大切になります。
これまで外出など活動的だった人が「最近は外出もせずに眠り込むことが多くなってきた」というときは、特に気をつけましょう。
傾眠と副作用
傾眠の治療に使われる薬には、一般的に精神刺激薬、中枢神経刺激薬といったものが使用されます。国に認可されたものは「モダフィニル」「ペモリン」「メチルフェニデート塩酸塩」があります。
モダフィニルの副作用
副作用で一番多いのは頭痛になります。割合としては30%ほどの人が起こすようです。その他には、「不眠」「口の渇き」「動悸」「食欲不振」などが多くみられます。
これらは症状が軽いため、それほど心配ないと思いますが、辛かったり日常生活に支障が出るようであれば、医師に相談することをお勧めします。
ペモリンの副作用
ペモリンの副作用で割合が多いのは、「不眠」「頭痛」「動悸」「口の渇き」「食欲不振」「吐き気」「便秘」といった報告があります。
これらの副作用は、症状が軽いのでそれほど心配いりませんが、気になる場合は早めに病院等へ相談することをお勧めします。
重い副作用として、念のため注意が必要なのが肝障害です。皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色になるといった事が見られた場合は、肝臓に異常がないか調べてもらいましょう。
メチルフェニデート塩酸塩の副作用
メチルフェニデート塩酸塩の副作用として比較的多いのは、口の渇き、食欲不振、吐き気、便秘、不眠、頭痛、体重減少などです。この副作用も比較的軽いので、それほど心配いりません。
動悸や頻脈、血圧変動など循環器系の副作用も稀に起こることがあります。心臓に負担をかけるおそれがありますので、心臓の疾患をお持ちの方は病状の悪化に注意が必要です。
個人的な意見ではありますが、傾眠の治療するのに最初から薬を使用するより、他の対処方法を試してみてからの方が良いかと思います。
若い人も傾眠になる?
最初に申し上げたように、傾眠は高齢者に起こる意識障害の1つです。ですが、「傾眠」と検索してみると「若い」とか「若者」というキーワードが出てくることがあります。
若い人がかかる傾眠に似たような症状があるのは、過眠症の1つである「周期性傾眠症」になります。女性よりも男性の有病率が約4倍も高いとされます。
周期性傾眠症とは、別名をクライネ・レビン症候群と言い、本当に稀な疾患です。思春期に発症し、2〜20日間持続する傾眠状態を1〜数カ月、場合によっては数年に一度の間隔で周期的に繰り返しますこともあります。
成長して成人になると、ほとんどの症状が自然になくなります。傾眠期の初期には眠気が強く1日中眠り続けたりしますが、トイレに行きたくなるとちゃんと覚醒します。
無理に起こしても、不機嫌になったりする事が多く、無気力で、考えもまとまらず、記憶力も低下していることが多いため授業もまともに受けられません。
この時期には過食になることが多く見られ、暴飲暴食を止めるように注意されても、隠れて盗み食いするほど自制が効かなくなることもあるようです。
周期性傾眠症は、原因が全く不明なため治療法が確立されていません。いったん過眠の病相期が始まると治療が困難になります。
そこで、過眠病相が生じないよう予防するために、感情調整薬が中心となる薬物療法が有効に働く場合があります。
また、感染や睡眠不足がキッカケとなる場合があるため、規則正しい生活を行うことが周期性傾眠症の予防に役立ちます。自然に治るのですが、完治するまでには平均14年とされています。
傾眠の原因
ウトウトした居眠りは若い人でもありますが、これが「回数が明らかに多い」「ある時を境目に急速に増えた」という場合は、傾眠傾向の可能性が高くあります。
傾眠傾向が高くなる原因はいくつかありますので、それぞれご紹介していきます。
加齢
高齢になれば誰でも多少の傾眠傾向は自然に起こることがあります。急激に傾眠傾向が出てきたというわけではなく、その他の日常生活や健康で特に問題がないのであれば、単純に加齢により高齢になったためという可能性が高いでしょう。
高齢者になると夜の眠りが浅く、昼夜が逆転して慢性的な睡眠不足に陥り、日中の眠気が取れない場合も考えられるでしょう。
薬の副作用
「風邪薬や花粉症の薬を飲むと眠くなる」というのは、若い方でも経験したことがあると思います。年齢に関係なく同じように、高齢者の場合も飲んでいる薬の副作用によって傾眠傾向が出ることがあります。
病気
臓器などに何らかの異常が起きている時も、傾眠傾向が起きやすいものです。例を上げるなら発熱のようなよくある基本的な症状から、代謝異常のような重度の症状まで、いずれも傾眠傾向の原因となります。
特に風邪のような軽度の症状の場合、体が治癒のために休息と睡眠を求めている可能性もあるでしょう。こうしたケースでは傾眠傾向を取り除こうとするより、しっかりと睡眠をとる方がよいこともあります。
こういった病気が原因の場合、病気が治れば傾眠傾向も止まることが多いです。
脱水症状
高齢者になると体内に水分を貯めておく機能がだんだん弱くなってきます。そのため、脱水症状が若い世代より起きやすいことが多くあります。また、のどの渇きを感じる感覚も鈍るため、水分不足になる傾向がるため、なおさら脱水症状を起こしやすくなります。
体が脱水状態になると脳や全身の機能が低下するため、傾眠傾向につながります。
認知症
認知症の症状は多くありますが、その1つに「無気力傾向が強くなること」があります。周囲の物事に関心がなくなるこの無気力が原因で、目が覚めている時間帯に脳の興奮作用が起きにくくなり、ボーっとした時間が増えて傾眠傾向が強くなるのです。
傾眠傾向を改善させるには
高齢者の傾眠が疑われる場合には、その症状についてまずは医師に相談することが大切です。もっとも心配なのは、内臓疾患などの病気が原因となり傾眠を生じている可能性です。
内臓疾患などの病気が原因の場合には、原因となる病気の治療により、傾眠傾向が消えることも多くあります。
また、薬の副作用による傾眠の場合も医師に相談しましょう。薬の処方を変更してもらうなどの対策によって傾眠を改善できる場合があります。
先程もご説明した通り、高齢者は脱水症状になりやすく、それが原因となる傾眠もあります。周囲の家族や同居人が声をかけ、こまめに水分補給をするように促していきましょう。
午前中に水分を摂取することで、内臓の動きも活発になり日中の覚醒効果が期待できます。
医師に相談しても、特に上記のような不安材料が見当たらず、加齢によるものと判断できる場合には、気を配りながら家族で穏やかに見守るようにするのが良いでしょう。
日中になるべく活動できるように、天気が良ければ散歩に連れ出したり、雨の日でも室内で体操したりする事なども傾眠を減らすことにつながります。
食事面でも注意が必要です。食欲低下で栄養不足に陥ると、さらに脳の働きが衰える原因となり、更には傾眠に繋がります。食事内容に注意し、十分な栄養が摂取できるように配慮しましょう。
大切なのは、傾眠傾向であると判断された場合でも、周囲がピリピリせず気長に対応することを意識するのが良いでしょう。
家族が傾眠の症状が悪化しないように、むやみに起こそうとしたりすると、本人も落ち着いて生活できなくなります。現在の状況を受け入れ、医師の指示に従って気長に対応していきましょう。
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